福岡高等裁判所 昭和29年(う)2248号・昭29年(う)2247号・昭29年(う)2245号・昭29年(う)2246号・昭29年(う)2244号 判決
の高さに一致すると思われる側胸に疼痛の存することを確認した上、全治まで十日間位を要するものと認めて診断書に右のとおりの記載をしたものであり且つその胸部の疼痛に対する治療として、二日間同人に鎮痛のための注射を打つた事実が認められるので、樹宮修の左側胸部には、真実、疼痛の存したことが明らかであり、しかも、原判決の挙示した証拠によると、同人のその胸部の疼痛は判示の方法により被告人豊島一広の加えた暴行の結果、生じたものであることを認定することができる。
ところで、刑法にいわゆる傷害とは、他人の身体に対する暴行によりその生活機能に障碍を与えることであつて、汎く健康状態を不良に変更した場合を含むものと解されるので、他人の身体に対する暴行により、その胸部に疼痛を生ぜしめたときは、たとい、外見的に皮下溢血、腫脹、又は肋骨々折等の打撲痕は認められないにしても、身体の内部における機能運動に障碍を与えて、健康状態を不良に変更させたものとして傷害を負わせたものと認めるのが相当であるから、挙示の証拠により、被告人豊島一広が樹宮修に対し、判示方法により暴行を加え左側胸部に判示打撲痛を蒙らしめた事実を認定判示し、これを傷害罪に問擬処断した原判決は正当であつて、所論のように、右事実の認定が誤つているということはできない。それ故、前記診断書の記載を「本人の訴えたとおりを書いた」ものであり、しかも「本人は痛いというたが診察の結果は、何も傷はなかつた」との趣旨に解して、傷害の事実を否定し、原判決の事実誤認を主張する論旨はその理由がない。
(裁判長裁判官 高原太郎 裁判官 大曲壮次郎 裁判官 吉田信孝)